▼松下幸之助とキャリア形成
キャリアという概念はアメリカから入ってきたせいか日本の現場でいろいろな形で展開しようとすると、しっくり行かない部分があるような気がしてならない
和を尊び、集団主義的社会のなかで培おうとするキャリア形成のあり方は、自我を重視し個人主義的社会のキャリア形成のあり方とは少し違うのではないかという思いがするのである
日本人としての視点からキャリア形成について延べたものや事例はないのだろうか?
そんな思いのときに「人間としての成功・幸福とは何か」(PHP友の会文庫)という題で松下幸之助が述べていることのなかにキャリア形成と結びつきそうな内容を発見した
T・「人間としての成功」と題して3つのことを述べている
〔1〕人にはおのおの異なった生命力が与えられています。この天分を生かすことが、人間としての成功であります
人にはおのおのみな異なった生命力が与えられている。この生命力は私たちの生命の根底となっており、宇宙根源の力によって全ての人に与えられている
人間に与えられたいわば天与のものであって、これを天分と呼んでもいい
全ての人がこの天分のままに生きることが、最も正しい生き方である
その内容は二つ
@生きようとする力〜生の本能
全ての人に共通で差異はない
Aいかに生きるかという使命を示す力
人によってみな異なる
この力によって万人万様、みな違った生き方をし、みな違った仕事をするように使命付けられている
〔2〕人間としての成功と社会的な地位とは、何のかかわりもありません。何が成功であるかは人によって異なるからであります
自分に与えられた天分を完全に生かすことが、真の意味の成功であり、ここに人間としての成功がある
社会的な地位や名誉や財産は成功の基準とはなってこない
〔3〕お互いに素直な心で自分の天分を見いだし、人間としての成功を全うしなければなりません。そこから個人の幸福と社会の繁栄が生まれてまいります
人間はこの天分に生きることによって初めて、真の幸福というものを味わうことができる
今までは地位や財産を得ることが唯一の成功であると考えられてきたために、これさえ得れば良いというので、非常に無理な努力をして、自分の天分というものをゆがめ、損なう場合が多かったと思う
今までの成功感というものには、幸福ということが無視されていた
U・天分を見出すには
そんなに簡単に分かってしまったのでは何の面白みもない。たやすくは分からないが、それを求めて努力していく、そこに得がたい人生の味わいがひそんでいる
V:努力の方法
@自分の天分を見出したいという強い願いを持たなければならない
その願いが強いと、日常の生活の中からし自然に、自分の天分を見出せてくると思う
例えば
・自分の内心の声が聞こえてくるときがある
・何かの動機や事件で、思わぬ天分が自分にあることが分かってくる
・また他人が自分に教えてくれるときがある
Aそのためには、素直な心をいつも持っている必要がある
素直な心が欠けていると自分を買いかぶったり、他人の勧めを曲解したりして、とんでもない方向に進んでしまう
A子どもたちに、こうしたものの見方を教え、周囲の者も、その子どもたちが自分の天分を発見しやすい、よい雰囲気を作ってやることが大切
家庭でそういう雰囲気を作らなければならないし、学校教育もこういう方向をとらなければいけない
またさらに大きく、社会全体が、天分の発見に熱意を持ち、また発見しやすいよう名雰囲気を作りあげるようにしなければならない
W:キャリアの方向性
各人が自分の天分を見出し、その発揮に努めるとき、全ての人が成功し、全ての人に幸福が実現してくる
のみならず、みなそれぞれに自分の天分に従って、無理をせず、無益な競争もせず、自分に与えられた役割を完全に果たすようにするならば、社会全体が一つの有機的な活動を示すようになって、日一日と繁栄していく
以上が松下幸之助の概念であるがこれらはキャリアのテキストで学ぶ「外的キャリア・内的キャリア」「内なる声」「自己理解」「自己実現」「キャリアアンカー」「スローキャリア」などの概念に通ずるものである
松下幸之助は自らの生き様の中からこのような概念を身につけて、生き方のなかに取り入れていった先達であったといえるのではないか
PHP運動で重視している「素直な心」の位置づけも明確になり、理解が深まる
どのようにして松下幸之助がこのような概念身につけていったかは、松下幸之助の講演録や著書から学ぶことができる
「社会的な地位や名誉や財産は、成功の基準ではない。自分に与えられた天分に添うか添わないかが基準である」という先達の概念は、格差社会のなかで苦しむ人や、退職後の生きがいを求める中高年齢者にはどのように受け止められるだろうか
2010.08.14:choro
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