▼映画「キャタピラー」
寺島しのぶが今年の2月、ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞をとった映画である
1人の農家の長男が兵として中国大陸戦線に送られた
この兵は帰還したが、手足、聴覚、言葉を失い顔面には大やけどを負っていた
その代償に3つの勲章を授与され、軍神と呼ばれる身になっていた
芋虫(英語でキャタピラー)のような状態になって帰ってきた夫の姿を見た妻は半狂乱になった
芋虫状態となった夫は、すさましい食欲、睡眠欲、性欲を発揮して妻を悩ませる
妻は「軍神の妻」として扱われ、軍神の妻として振る舞いが求まられる
軍神の妻はその求めに応じて懸命に努めるが次第に自分との葛藤が生まれ、軍神との毎日の生活が戦いの場となっていく
この映画で監督は何を訴えようとしたのだろうか
河北新聞の記者は「生ける軍神は戦争そのものの異形性を象徴している」と述べているが「異形性」とはなんなのかよくわからない
戦争がもたらす残酷さ、異常さ、非人間的なものではないかと思われるが、監督が意図したほどその思いは伝わってこない
戦争の不条理を妻側のみ描いているが、芋虫にされた軍神側からも描くべきではなかったのか
この映画を観ていて、戦争の不条理よりも「人間とは何か」を考えていた
芋虫になっても発揮する、食欲、睡眠欲、そして性欲
観ていて辟易するくらいの描写が続く
目を背けたくなるが人間の本質をついているのではないか
人生とは何ぞや、と問われたら「食うこと、寝ること、セックスすること」と答えることから始るのではないか
それに何ほどのものを積み上げられるというのか
何ほどのものを積み上げてきたといえるのか
人生の終盤を迎えた今、時折考える
セックス描写が多い映画である
寺島しのぶが体当たり的演技で監督の期待に応え、感動的映像になっている
R15になっているが高校生は500円で観られるのだそうだ
映画を観ながら「人間とは何か」と同じように「セックスとは何か」を考えていた
何も分かっていないことが分かっただけ
軍神とあまり違わないのかもしれない
監督は何故帰還兵を芋虫として表現しなければならなかったのか
そこまでぎりぎりの状態まで追いこまなければいけなかったのか
「ジョニーは戦場へ行った」と江戸川乱歩の「芋虫」をモチーフにしたオリジナルストーリーと紹介されているが、画面で観る軍神からはホラー的恐怖を覚える
ということで監督の意図するところが良く分からないまま観終えてしまった映画であるが、寺島しのぶの演技だけは十分に伝わってきた
「赤目四十八滝心中未遂」で裸の体当たり演技に感動したが、今回は体全体を使っての周忌迫るような演技である
この映画で寺島しのぶの演技を堪能してもいいのではないか


2010.09.02:choro

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