「伝説」のクイーンから元祖「クイ−ン」へ:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ
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「伝説」のクイーンから元祖「クイ−ン」へ
2019.03.23:Copyright (C) ヒカリノミチ通信|増子義久
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「URGENT(緊急)!!!URGENT(緊急)!!!」―。こんな切羽詰まった呼びかけで始まる、その公式ツイッタ−には「米軍基地の拡張により脅かされている美しいサンゴの海と、かけがえのない生態系を守ろう」と記されていた。今年1月7日未明のことである。発信者は英国の人気ロックバンド「クイ−ン」のギタリストで、天文学者でもあるブライアン・メイさん(71)。米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設工事(新基地建設)をめぐり、米トランプ大統領に対して、埋め立ての賛否を問う沖縄県民投票(2月24日)まで工事を止めるよう求めていた。ブライアンさんの発信はホワイトハウスへの嘆願署名の締め切り直前。クイ−ンを題材にした映画「ボヘミアン・ラプソディ」(2018年、米映画)の異例の大ヒットと重なった相乗効果もあり、全世界からの署名は20万筆を超えた。
この映画はクイ−ンのリ−ドボ−カルで、エイズをわずらって1991年に45歳の若さでこの世を去ったフレディ・マ−キュリ−を描いた伝記ドラマである。現メンバ−であるブライアンさんとロジャ−・テイラ−(ドラムス)が音楽総指揮を手がけた。第76回ゴ−ルデングロ−ブ賞では最優秀作品賞(映画・ドラマ部門)と最優秀主演男優賞(ラミ・マレック)を受賞。第91回アカデミ−賞でも主演男優賞など最多4部門に輝き、日本でも”クイーン現象”と呼ばれる大ヒットとなった。待望久しいこの映画に最近やっと、めぐり合えた。その内容のすばらしさは当然のこととして、私は「クイ−ン」という命名をめぐる”偶然の一致”が以前から気になっていた。
岩手最古のジャズ喫茶「クイ−ン」については、1月21日付と3月4日付の当ブログで紹介した。思い込みとは恐ろしいものである。私はかの伝説のロックバンドが店名の由来だと信じ込んでいた。映画を見てまちがいに気が付いた。フレディらがクイ−ンを結成したのは1970年。昨年夏に鬼籍に入ったオ−ナ−の佐々木賢一さん(享年76)が三陸沿岸の大槌町に同名の喫茶店を開業したのはその6年前の1964年、東京オリンピックが開かれた年の9月10日である。元祖は賢ちゃんの方だったのである。「で、そもそも、その名の由来は?」と聞こうとしてもその人はもういない。
目の前のスクリ−ンでは20世紀最大のチャリティコンサ−トと言われた「ライヴエイド」が再現されていた。1985年7月、「1億人の飢餓を救う」というスロ−ガンを掲げ、アフリカ難民の救済を目的として開催された。クイ−ンは「ボヘミアン・ラプソディ」(1975年)など全出演陣中、最多の6曲を披露した。「ラスト21分間のパ−フォ−マンス」と呼ばれる名場面がある。バンドメンバ−と大観衆とが一体化する感動の一瞬である。マイクをゴルフクラブのように操るフレディ(演じるのは主演男優賞のラミ・マレック)…。刹那(せつな)、ジャズ喫茶「クイ−ン」のたたずまいがすう〜と、背後から浮かび上がってくるような錯覚を覚えた。
8年前、東日本大震災の大津波はこの老舗スポットをひと飲みし、妻と約1万2千枚に及ぶレコ−ドコレクションを海の無辺に流し去った。一方で、二度目となる東京オリンピックを来年に控え、「3・11」の記憶は忘却の彼方に押しやられつつある。この映画はこうした風潮に異議申し立てをしているのではないか、とふと思った。「居場所のない者、悩める者、弱き者、名もなき者」―に捧げる音楽こそが「クイ−ン」精神なのだと、パンフレットにある。その通りだと思う。ブライアンさんが「沖縄」に寄せるまなざしもその精神の体現なのだろう。
「伝説」のクイーンから元祖「クイ−ン」へ………映画「ボヘミアン・ラプソディ」は海の藻くずと消えた“元祖”へのレクイエム(鎮魂歌)ではないかと、私はひとり合点したのだった。”伝説”の日本公演は6回をかぞえた。クイーンよ、永遠(とわ)なれ……
(写真はありし日のフレディとブライアンさん(右)のライブのひとこま=インタ−ネット上に公開の写真より)