「新しい日常」から“ニュ−ノ−マル”へ:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ
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「新しい日常」から“ニュ−ノ−マル”へ
2020.06.09:Copyright (C) ヒカリノミチ通信|増子義久
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ステイホ−ムやソ−シャルディスタンス、リモ−トワ−ク、テイクアウト、エッセンシャルワ−カ−、アフタ−コロナにウイズコロナ、ついでに言えばオン飲み(オンライン飲み会)にアベノマスク…。いま、巷(ちまた)にはまさにパンデミック(大流行)並みのカタカナ語が氾濫している。最近では「新しい日常」が「ニュ−ノ−マル」(新常態)などと翻訳されて、ひとり歩きし始めた。感染症予防のための「新しい生活様式」が気がついてみれば、“体制用語”に変換されているという危うさ。そう、歴史はそうやって繰り返されてきた。
満5歳で敗戦を迎えた私にとっての“ニュ−ノ−マル”は「戦後民主主義」だった。父親を戦地で失った悲しみをいやすことができたのも、これまで感じたことのなかった時代の風だった。「Hey、Come On」―。チュ−インガム欲しさに占領米兵が運転するジ−プを追い回すのが、当時の子どもたちの新しい生活様式のひとつだった。これまで嗅(か)いだことのない不思議なにおいだった。B29の砲弾に追われ、防空壕に身をひそめる日々からの「解放」をかみしめたのは実はこの「アメリカのにおい」だった。当時はまだ、希望の光が満ちあふれていた。あれから75年―戦後民主主義が後期高齢期を迎え、足腰がヨタヨタし始めたちょうどそんな時、コロナパンデミックが襲いかかった。
「60年安保世代」―。物心がついた大学生時代、私たちはこんな呼ばれ方をした。当時、アメリカへの従属をより強めるための「日米安全保障条約」の改定をめぐる政治交渉が緊迫の度を加えていた。こうした動きに警戒を強める労働者や学生たちが国会を包囲した。皮肉なことにこの時のエネルギ−の源(みなもと)こそが全身に浴びるように注がれた戦後民主主義の洗礼だった。改定を強行した当時の岸信介首相は責任取って辞任したが、高度経済成長を満喫したのもつかの間、その後はバブル崩壊や「失われた20年」に見舞われて現在に至っている。そしていま、過去に経験したことがない未曾有の危機の陣頭指揮をとるのが、岸元首相の孫にあたる現安倍晋三首相である。これもまた、もうひとつの歴史の皮肉である。
「大人も初(はじ)めてのピンチにどうすればよいかわからず、なやんでいます。みなさんは歴史(れきし)の当事者(とうじしゃ)です」―。群馬県内の教師が新一年生にこう呼びかけたという新聞記事を目にした。自らの「思考停止」状態を正直に告白するこの教師の誠実さに好感を持った。いまの私も視点の定まらない五里霧中をさ迷い歩いているからである。
今回のコロナ禍をきっかけにニュ−トンの「万有引力の法則」にまつわるエピソ−ドが話題になっている(4月27日付当ブログ参照)。17世紀、英ロンドンを襲ったペスト禍のあおりで大学が休校になったため、ケンブリッジの大学を卒業したニュ−トンは故郷への疎開を余儀なくされた。今でいう「ステイホ−ム」である。「リンゴが木から落ちる」瞬間を目撃したのは、そんな悄然(しょうぜん)とした心地の中だったらしい。ペスト禍による休校がもたらした”偶然”…世紀に残るこの大発見をもたらしたステイホ−ムの期間はのちに「創造的休暇」とか「已むを得ざる休暇」と呼ばれたという。次代を担う「歴史の当事者」こそが未来の創造主たりうるということだと思う。
動物学者で東山動植物園(名古屋市)の企画官、上野吉一さん(59)はこう話している。「ひるがえってコロナ禍に目を向けると、そもそも森の中で眠っていたウイルスを、環境破壊よって市中に引きずり出したのは人間でした。人間至上主義が自然との距離感を崩してしまったのです。もう一度、ホモ・サピエンスとしての身の丈を見直すよう迫られていると私は考えます」(6月5日付「朝日新聞」)―
「Normal」(正常)は時として、「Abnormal」(異常)を際立させるという逆説をあわせ持っている。たとえば、耳目をそばだてれば「緊急事態宣言」発令の背後から憲法改正の“底意”が立ち上がってくる気配が感じられる。「戦争」から「平和」へ…戦後民主主義の“揺りかご”に揺られて育った私たちの世代は、こうした危機に乗じた時代の変調にはことさら敏感になってしまう。「コロナ世代」という言葉を最近、耳にするようになった。ウイルスと共存する「新しい文明」を創造できるのはコロナの申し子である、この世代を抜きにしてはあり得ない。“ニュ−ノ−マル”のいかがわしさを嗅(か)ぎとる嗅覚がいま、求められている。私にとってのそれが「アメリカのにおい」だったように……
(写真は国際統一規格―「ソ−シャルディスタン」の風景=米ニュ−ヨ−クで。インタ−ネット上に公開の写真から)