エリカに“憑依”(!?)した太宰:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ
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「一緒に堕(お)ちよう。死ぬ気で恋、する?」―。映画「人間失格―太宰治と3人の女たち」(蜷川実花監督、2019年=当ブログ10月19日付「男やもめの“ハシゴ映画”顛末記」参照)はこんなセリフで幕を開ける。太宰に扮した俳優の小栗旬がもうひとつの太宰の代表作『斜陽』のモデルとなった愛人の太田静子を口説くシ−ンである。「恋を、しに来るのを待ってた」と真っすぐに受け入れる静子役を演じるのは、いま薬物疑惑の渦中にいる女優の沢尻エリカ(33)である。連日、テレビのワイドショ−を賑わせているこの女優を横目で見ながら、ふと思った。「ひょっとしたら、この人はまだ、静子役を演じ続けているのではないのか」…
静子ら3人の女性を愛した作家の太宰治(1909―1948)は昭和23年6月13日、最後の愛人の山崎富栄と一緒に東京・玉川上水で入水自殺するまでの39年間の人生で、自殺未遂や心中未遂などを4回繰り返している。さらに、カルモチン(催眠剤)やパビナ−ル(鎮痛剤)などを服用し、常時、薬物中毒の状態にあった。こんなデカダンス(虚無・退廃)の太宰と小説家を希望する静子との運命的な出会いが訪れる。沢尻は静子という人物について、こう話している。「どこまでもピュアな人。自分の感情にストレ−トに生きて、終戦直後の日本では、難しかった時代かもしれませんが、諦めずにやりきった女性なのかと思いました、…好きなことに突き進む点は、すごく素敵だと感じます」(パンフレットから)―
「バ−チャル・リアリティ」という言葉がある。仮想と現実が混然一体となった状態で、一般的は「仮想現実」と訳されている。太宰の愛人・静子に魅力を感じるという沢尻はもしかしたらずっと前から、境界線の向う側(仮想)を生き続けてきたのではないのか…つまりは太宰という人物像がこの女優に“憑依”(ひょうい)していたのではないのか―。広辞苑によると「憑依」とは「霊などがのりうつること」とある。薬物中毒の太宰の霊がエリカに乗り移り、「好きなこと」に突き進んだ結果が、今回の“エリカ騒動”を引き起こしたのではあるまいか。こんな妄想に取りつかれたという次第である。「耄碌(もうろく)の成れの果て」と笑わば、笑え。ところで沢尻は一方で、こんなことも漏らしている。
「(静子が)自分の好きなことに対してとことん、“いく”姿勢は好きですけど、太宰と禁断の恋にのめりこみ、奥さんがいることをしりつつ子供を産むという精神と言動は、個人的には理解できないところもありました」(パンフレットから)―。「静子」から「エリカ」へ…向こう側(仮想)からこちら側(現実)へとふと、我に返った瞬間だったかもしれない。そういえば、沢尻は逮捕後、「薬物は10年以上前から使っていた」などと量刑に影響が出そうな言葉を口にし、その一方で尿検査の結果は陰性と出ている。このあたりの心境がナゾだとワイドショ−はかまびすしいが、へそ曲がりの私は「これぞ、大女優のあかしじゃないか」と逆に応援したくもなる。
冒頭の殺し文句で静子を演じる沢尻を口説き落とした太宰役の小栗はこんな風に語っている。「実際の沢尻さんはサバサバしていて話しやすい。静子との絡(から)みの場面も多かったと思うのですが、とてもやりやすく、助けてもらいました。静子との印象で強く残っているのは、撮影初日、バ−の奥の個室でキスする場面ですね。あそこから、太宰へのラストの人生が始まったという感じがあります」(パンフレットから)―。私の脳裏にも静子になり切った沢尻の迫真の演技が残像のようにこびりついている。
沢尻エリカは「パッチギ!」(井筒和幸監督、2005年)で新人賞を総なめしたほか、「ヘルタ−スケルタ−」(蜷川監督、2012年)で日本アカデミ−賞優秀主演女優賞を受賞している。「虚」と「実」を自在に行き来することこそが、演技者にとっての欠かせない技(わざ)だと私は思っている。「堕ちるところまで堕ちた」…人間を失格したエリカはいま、そのどん底から「はい上がろう」としているのではないか。太宰を溺愛し、いまその男にバイバイを告げるようとする名優・エリカにエ−ルを送ろうではないか。自分にも「老いを味わう」―気分(11月17日付当ブログ参照)が少しは出てきたのか、と満更(まんざら)でもない今日この頃である。
(写真は静子(エリカ)と太宰(小栗)の逢瀬の一場面=インタ−ネット上に公開の写真から)