号外―ルポ「としょかんワ−クショップ」その2…消えた「環境」の二文字:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ
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「すべての市民が親しみやすく、使いやすい環境に配慮した図書館」→「すべての市民が親しみやすく、使いやすい図書館」…。図書館立地の重要なキ−ワ−ドのひとつである「環境に配慮した」という部分がそっくり消えてしまっているのをうっかり、見過ごすところだった。13日に開かれた第2回「としょかんワ−クショップ」で、「新花巻図書館整備基本構想」(平成29年8月)が検討資料として配られた。この下敷きになったのがその5年前、花巻図書館整備市民懇話会がまとめた「花巻図書館への提言」(平成24年10月)。その中の三つの基本コンセプトのひとつが冒頭に紹介したキャッフレ−ズである。直感的にこの改変にある種の作為を感じた。
基本構想にはこうある。「図書館は市街地再生に資する施設として、まちづくりや都市計画とも整合したものとする必要がある。当市は平成28年6月に市街地の定住化を促進し、市街地に都市機能を誘導する『花巻市立地適正化計画』を作成し公表したが、新しい図書館はその中で『都市機能誘導区域』に整備することし…」―。そして、今年1月29日に突然、天から降ってきた、賃貸住宅付き図書館の駅前立地という“青天の霹靂(へきれき)”構想(「新花巻図書館複合施設整備事業構想」)を巡って、市議会と市当局とはいま、全面対決の様相を呈している。一般市民だけではなく、ワ−クショップの参加者たちさえ、この複雑極まる転変に付いていけない様子だった。頭を整理するため、以下に経緯を整理してみたい。
※
*「花巻図書館整備市民懇話会」設置(平成23年=2011年12月)
*「花巻図書館への提言」(平成24年=2012年10月25日)
*「花巻中央図書館基本計画」策定(平成25年=2013年5月28日〜「こどもの城」構想との複合化
*上田東一市長が初当選(平成26年=2014年1月26日)
*建設予定地の「花巻厚生病院跡地」で土壌汚染が発覚。上記計画の中断・断念(平成26年=2014年3月)
*「都市再生特別措置法」の一部改正で、国がコンパクトシティを進めるための「立地適正化計画」を創設、策定を促す(平成26年=2014年8月)
*「まちづくりと施設整備の方向―立地適正化計画による都市再構築の方針(案)」(平成26年=2014年11月)〜上田市長が初めて、図書館構想に言及。「図書館は整備や運営の手法、まちづくりの核として、そのあり方の多様化が全国で見られることから、都市機能誘導区域内に移転するとともに、市街地の振興に資する機能を付加することを検討する」
*全国で3番目に「立地適正化計画」を策定(平成28年=2016年6月)
*「新花巻図書館整備基本構想」策定(平成29年=2017年8月)
*「新花巻図書館複合施設整備事業構想」策定(令和2年=2020年1月29日)
*当局側が図書館関連予算を含む「令和2年度一御案会計予算案」を撤回(令和2年=2020年3月9日)
*議会側が「新花巻図書館整備特別委員会」設置(令和2年=2020年3月18日)
※
以上の経緯を踏まえ、私は「立地適正化計画に基づく図書館の市街地への立地は自然環境の確保の面で共存はなかなか難しいのではないか。そのために、この文言をあえて削除しなければならなかったのではないか。そう考えた方が整合性がある」とただしたのに対し、市川清志・生涯学習部長は「環境に配慮して…という文言があえてなくても全体の文意は伝わると思った」とケロリと言ってのけた。消えた「環境への配慮」は別の文脈で、こんな形で息を吹き返していた。「自然エネルギ−の活用を検討し、照明器具や冷暖房設備など省エネルギ−の施設とする」―。「詭弁」(きべん)とさえも言えない、市民を小バカにした言い草ではないか。緑に囲まれた閑静な空間と「賑わい」拠点の創出が両立しないことは子どもでも分かる理屈である。つまり、立地適正化計画による市街地活性化はそもそもが「環境への配慮」とは相容れない発想だったのであり、だからこそ今回の「駅前立地」に当たっては、このキーワードの削除が必要だったのであろう。正直にそう言えばいいだけの話しである。
この日のワ−クショップは時節柄、全員がマスクを着用し、ソ−シャルディスタンスを保ちながら、進められた。マスクを通したくぐもった声で、私は自らの基本的なスタンスについて、こう意見表明した。「誰もが逃れることのできないコロナ禍の中にいま、私たちは生きている。今度またいつ、パンデミックに襲われるか予想すらできない今こそ、図書館のあり方も根本から考え直さなくてはならないと思う」―。反応はほとんどなく、何か呆気にとられたような空気が会場に流れた。この発想の転換については、その道のプロに語ってもらった方が的を得ていると思う。図書館プロデュ−スの達人として知られる岡本真さん(アカデミック・リソ−ス・ガイド代表)はこう語っている。
「端的に言えば、図書館の集客機能がまちづくりの文脈で評価・尊重されてきましたが、新型コロナの感染拡大を防ぐには、図書館においても、むやみに人を集められない、かつ長時間の滞在が好ましくない、さらに交流自体を大規模には行えないということになります。この10年ほど、大きな影響力をもってきた図書館による『賑わい』創出という考え方は、曲がり角に来たと感じています。コロナの終息が見えないこともあり、この機会に今度こそ、本気で資料のデジタル化を進める必要があります。コロナの脅威がいつまで続くのかは、まだ誰にもわかりません。ですが、今後も発生が予測される新たな感染症の脅威を見込むと、公共施設の計画・整備・運営は一度ゼロベ−スから組み上げ直していく必要があるでしょう」(2020年7月10日付論考「新型コロナ後、『図書館×まちづくり』の在り方が問われる」)
(写真はワークショップで意見を交わす参加者たち=13日、JR花巻駅前の定住交流センタ―「なはんプラザ」で)