観光船沈没事故と「近くて遠い島」北方領土・国後島:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ
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「知床事故、国後の遺体は甲板員か」(22日付「朝日新聞」)―。北海道・知床半島沖で乗客・乗員26人が乗った観光船沈没事故の関係者とみられる遺体が北方領土・国後島西岸で発見されたというニュ−スに接し、“国境の海”の厳しい実態をまざまざと思い出した。もう、40年近くも前になる。当時、私はこの海域を股にかけて暗躍する密漁グル−プの取材を続けていた。日本最東端の根室・納沙布岬の北東約3・7キロ先に傾きかけた灯台がぽつんと立っている。日ロ間の中間ライン(実質的な国境線)のすぐ近くに位置する北方領土・貝殻島である。
「貝殻島の近くの海底にコンブに絡まった人の頭があるんだよ」―。ある日、親しくなったグル−プのひとりが耳打ちしてくれた。時を同じくして、知床半島のとある港町でバラバラ殺人事件が発生していた。「すわぁ、被害者の身元か!」と警察も色めき立った。町で一番豪華なすし屋に警察暑長から御座敷が掛かったのは、事件の迷宮入りが取り沙汰され始めた時だった。「さ、いっぱい」と署長は徳利を手におもむろに口を開いた。「ところで、あなたの筋であの骸骨をこっちに持って来てもらうわけにはいかないだろうか。ご存じのようにあの海域には日本の警察権力が及ばないもんで…」
土台、“商談”がまとまる話ではないと分かったうえで、グル−プのリ−ダにこの話を伝えた。暴力団筋のこの男はニヤニヤしながら、条件を出してきた。「あの辺りはウニの宝庫なんだよ。1週間だけ密漁を黙認してくれるなら、考えて見てもいいぞ」―。当然のことながら、警察側が刑法犯の“密漁”を認めるわけにはいかない。いつしか、唯一の「ブツ」(証拠)は流氷とともに消え去り、事件は未解決のまま捜査を終了した。
「飲んで騒いで丘にのぼれば/はるかクナシリに白夜は明ける…」―。森繁久彌が「知床旅情」で歌うように、国後島は今回事故が発生した知床半島突端から「白夜」を眺望できる指呼(しこ)の間である。しかし、ロシアによるウクライナへの侵略とそれに対する日本側の制裁措置で「近くて遠い島」はますます遠くなりつつある。
(写真は知床半島から望む国後島=インタ−ネット上に公開の写真から)