旧菊池捍邸は賢治寓話『黒ぶだう』のモデルではなかった!!??…提唱者が自説の撤回へ〜後を絶たない賢治“受難劇”:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ

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旧菊池捍邸は賢治寓話『黒ぶだう』のモデルではなかった!!??…提唱者が自説の撤回へ〜後を絶たない賢治“受難劇”


 

 「宮沢賢治が実際に旧菊池捍邸を訪れたり、捍(まもる)さんと対面したという確証は最後まで得られなかった」―。『黒ぶだう』モデル説の提唱者のひとりで、花巻市文化財調査委員の木村清且さん(74)は足かけ20年近くにわたって主張してきた「モデル説」が実は、最初からこの建物を作品の舞台(モデル)に見立てた“見切り発車”だったことを初めて、明らかにした。花巻市の上田東一市長がこのモデル説に疑義を呈しながら、一方でふるさと納税の返礼品のひとつである「花巻黒ぶだう牛」を宣伝するための“広告塔”に利用している事実が発覚。”二枚舌”手法によるある種の官製”詐欺”ではないかと批判したのがきっかけになった。市民の間には二重の”犯罪行為”ではないかという批判が出ている。

 

 『黒ぶだう』モデル説の定説化にあずかったのが木村さんら二人の共編になるガイドブック「賢治寓話『黒ぶだう』の素敵な洋館はここです」(2016年刊)である。現在、市内御田屋町に現存する旧菊池捍邸についてはこう書かれている。「江戸時代さながらの茅葺き平屋の武家屋敷の並ぶ通りに忽然と現れた二階建ての西洋館、それは賢治が夢見たイーハトヴの出現でした。『黒ぶだう』はこの建物が賢治の想像力をかきたて、産みだされたお話しなのです」

 

 木村さんはこの間の経緯をこう話した。「当時、衰退する一方の中心市街地を活性させるため、賢治を軸としたまちづくりや景観づくりを模索していた。そんな時、賢治に詳しい共編者の方がこの建物とぴったりの賢治作品があると…。それが『黒ぶだう』だった。その作品を改めて読んでみると、イメージが旧菊池捍邸に違和感なく、重なった。しかし裏付けが必要なので、捍さんの日記や名刺類など膨大な資料を精査し、さらに賢治との接点を捜して捍さんが勤務したことがある台湾にまで足を延ばした。しかし結局、それを立証する根拠を発見することはできなかった。そんな中、モデル説だけがひとり歩きしてしまった」

 

 賢治“受難劇”は上田市政になってから顕著になった。90億円を超える莫大なふるさと納税の寄付額(全国自治体で第13位)を支えているのは牛や豚などの食肉関係が大半で、付加価値を付けるための“賢治利用”も目に余るようになっていた(「モデル説をめぐるミステリー・シリーズ」や7月27日付と8月17日付の当ブログ参照)。この件に関して、木村さんは「返礼品の宣伝にモデル説が利用されているとは知らなかった。いまは(旧菊池捍邸は)『黒ぶだう』が読みとれる作品だと説明することにしている」と話した。しかし見方によっては、ある種の“捏(ねつ)造”とさえ受け取られかねないモデル説とそれを利用した“錬金術”……賢治を“食い物”にしてきたという意味では双方ともに同罪と言わざるを得ない。

 

 戦後の一時期、賢治の詩「雨ニモマケズ」の中の「玄米四合」が「三合」に改ざんされた“事件”があった。新しい国語(中学用)に採用する際、「戦後の耐乏生活の中で四合では贅沢すぎる」というのがその理由だった。作家の井伏鱒二は広島原爆を描いた代表作『黒い雨』の中で、ある女性からの伝言の形でこのエピソードに触れている。「子供がこの事実を知ったら、どういうことになりますか。おそらく、学校で教わる日本歴史も信じなくなるでしょう。もし宮沢賢治が生きかえって、自分で書きなおしたとすれば話は別ですが…」―

 

 旧菊池捍邸の『黒ぶだう』モデル説も賢治が銀河宇宙から舞い戻って、執筆したというのなら「話は別」であろう。しかし、ガイドブックはこんな「見てきたようなウソ」で終わっている。「賢治が(花巻黒ぶだう牛のことを)知ったら、きっと喜んでホッホーと飛び上がったことでしょう」。一方の上田市政はと言えば、将来の都市像をこう謳いあげている。「豊かな自然/安らぎと賑わい/みんなでつなぐ/イーハトーブ花巻」―。足下に視線を下ろしてみる。賢治を”懐(ふところ)肥やし”に利用する一方で、賢治自身の思索のホームグランド(原点)でもあった「新興製作所跡地」(花巻城址)は残骸を残したまま、放置されている。賢治が夢の国とか理想郷と呼んだ「イーハトーブ」のこれが舞台裏の実態である。

 

 わたしはいま、58年ぶりに再審無罪を勝ち取った袴田巌さんの「無実の罪」の重さに打ちのめされている。捜査当局が衣類などの証拠品を捏造するという前代未聞の国家犯罪である。今回の「モデル説」騒動を見ていると、賢治もまたある意味で“冤(えん)罪”の被害者ではないかとさえ思ってしまう。賢治“利権”というおぞましい言葉がまたぞろ、頭の中をグルグル徘徊し始めている。いまこそ、「まるごと」賢治を体現する真の「イーハトーブ」の実現を目指すべき時ではないのか。

 

 

 

 

(写真の「雨ニモマケズ」詩碑には連日、観光客が訪れる。この日は埼玉県の慶応義塾大学附属志木高校の生徒たちがガイドから説明を受けていた=花巻市桜町4丁目で)

 

 

 

 

 

『注記』〜花巻黒ぶだう牛(サーロインステーキ用)の宣伝広告(市HPふるさとチョイスから。再掲=10月6日現在)

 

 

 「花巻黒ぶだう牛」は、花巻が世界に誇る株式会社エーデルワインが製造するワインのぶどうの搾りかすを飼料として給与しており、さらりとした脂と豊かな風味が特徴です。花巻出身の詩人で童話作家の宮沢賢治の寓話(ぐうわ)『黒ぶだう』で仔牛がぶどうを食べる描写があることから名づけられた、花巻ならではの「ブランド牛です!

 

 寓話『黒ぶだう』は、花巻市御田屋町の旧菊池捍邸が舞台とされ、赤狐に誘われた仔牛が、留守の人間の別荘に入り込み勝手に「黒ぶだう」を食べていたところに住人の公爵一行が帰宅し、逃げ遅れた仔牛は見つかってしまいますが、怒られもせず、逆に黄色いリボンを結んでもらうというものです。物語の中で、赤狐はぶだうの汁ばかり吸って他は全部吐き出しますが、仔牛は「うん、大へんおいしいよ」と種まで噛み砕いて食べてしまいます。賢治は、当時すでに、ぶどうの搾りかす(皮と種)が家畜の餌として使えることに気づいていたのかもしれません

 

 

 

 

 

 


2024.10.01:Copyright (C) ヒカリノミチ通信|増子義久
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