▼「旧菊池捍」邸と『黒ぶだう』モデル説をめぐるミステリ―(その5=完)…「東日流外三郡誌」の再現か、はたまた第2の「ゴッドハンド」事件か!!??
「立証」「発見」「明らかに」…。旧菊池捍邸の『黒ぶだう』モデル説の提唱者の各種論考にはこんな断定的な表現が並んでいる。ところが、仔細に読み進めても肝心の宮沢賢治と菊池捍との接点をうかがわせる記述は一切、見当たらない。それどころか「菊池邸は賢治の生家の近く。散歩好きの賢治はこの家の前をしょっちゅう、通ったにちがいない」「いや実際に邸内に入り、内部を見せてもらったこともあったのでは…」―。こんな“憶測”だらけの迷宮をさまよい歩いているうちに、突然、戦後日本を騒然とさせた二つの「捏造」(ねつぞう)事件を思い出した。「モデル説」がこれらの事件と二重写しに重なったのである。余りの唐突さに自分でも驚いてしまった。 「天井裏から落ちてきた」―。1970年代初頭、『東日流外三郡誌』(つがるそとさんぐんし)』なる古文書の存在が世間の話題をさらった。「発見者」は青森県御所川原市在住の和田喜八郎(平成11年没)。ヤマト王権から弾圧されながらも北東北地方にはかつて、独自の文明が栄えていたという、ある種のユートピア「幻想」に彩(いろど)られていた。和田の講演会に足を運んだことがあるという知人はこう話した。「ものすごい熱気。まるで、カルトだった」。この“和田家文書”は『市浦村史/資料編』(北津軽郡市浦村)に収録されるなど和田が亡くなるまで、一部では熱烈な支持を受け続けた。死後、“真贋”(しんがん)論争に発展した結果、専門家の間で“偽書”とみなされ、いまに至っている。 私自身、『黒ぶだう』モデル説を自然に受け入れてきた経緯がある。その背景にあるのは多分、のちに偽書と断定されたものの『東日流外三郡誌』が振りまいたあの“幻想感”と通底するものだったのかもしれない。自由自在に銀河宇宙を飛翔(ひしょう)する賢治作品が好きな私にとって、奇想天外な展開を見せるモデル説は一時期、イーハトーブ「幻想」さえ想起させるに十分だった。ただ一方で、その舞台を旧菊池捍邸に限定しようとするその執拗さにはずっと、疑問符が付きまとっていた。こんな折しも、もうひとつの捏造事件が頭によみがえった、 「旧石器」捏造事件―。平成12(2000)年11月、世間をあっと驚かせる事件が起きた。前期・中期の旧石器時代の遺物(石器)や遺跡とされていたものが実は発掘調査に携わっていたアマチュアの考古学研究家が事前に埋設し、あたかも新「発見」をしたかのように見せかけていた自作自演の事件である。毎日新聞が現場の動画撮影に成功し、発覚した。この間実に約25年間にわたって捏造を繰り返し、学会筋からも“神の手”と持ち上げられ、お墨付きも得ていた。検定教科書の書き換え騒動にまで発展する一方で、この「考古学的大発見」は一時期、まちおこしや観光振興のスローガンにも掲げられ、まるでお祭り騒ぎに沸いたことを覚えている。 イーハトーブ「幻想」と2大「捏造」事件―。上田東一市長が『黒ぶだう』モデル説に疑義を呈する一方で、これをふるさと納税の寄付金獲得の“広告塔”に使っていたことを知るに及んで、私の考えは完全に逆転してしまった(8月17日付当ブログ「これって、官製“詐欺”ではないか」参照)。ふるさと納税の寄付金総額は昨年度90億円の大台を超え、全国で13位にランクされた。トップテンは牛タンなど7種類の食肉加工品が独占、この分だけで寄付金総額のざっと85%を占めている。賢治が理想郷と呼んだ「イーハトーブ花巻」はまるで、“食肉市場”に化してしまったかのようである。賢治は父政次郎宛てにこんな手紙も送っている(要旨=大正7年2月23日付、宮沢賢治全集9『書簡』ちくま文庫) 「その戦争に行きて、人を殺すと云ふ事も殺す者も殺さるゝ者も、皆等しく法性に御座候(先日も屠殺場に参りて見申し候)牛が頭を割られ、咽喉を切られて苦しみ候へども、この牛は元来少しも悩みなく喜びなく、又輝き又消え、全く不可思議なる様の事感じ申し候」―。この手紙を読み返すうちに、上田流“錬金術”がまるであ”神の手”のようにヒラヒラと目の前に舞うような錯覚を覚えた。「許容限度を超えたな」とその時、思った。 「捏造」事件はいずれ、命脈が絶たれることを歴史は証明している。約20年間にわたって、広く受容されてきたこのモデル説もそろそろ。余命が尽きる時なのかもしれない。『黒ぶだう』を下敷きにした動物と人間とのほほえましい交歓劇…こんな“空想”物語だったら、末永くに読み継がれたにちがいない。しかし、場面は急転した。(そんな言葉はないと思うが)賢治の上前をはねるような、これはある種の“空想権”の侵害ではないのか。こんな突飛な思いが頭をかすめた。 最近、こんな話を耳にした。「モデル説がふるさと納税に少しでも貢献しているとすれば、その分、市の財政も潤うことになる。私腹を肥やしているわけではないのだし…」―。いや、事の本質をはき違えることの罪の大きさをこの2大「捏造」事件は教訓として、後世に語り伝えていることを忘れてはならない。このミステリー劇場はここでいったん、幕を下ろす。しかし、わが愛する賢治の”人権”擁護、そしてなによりも菊池捍その人の”名誉”回復のため、これからもペンを握り続けたいと思っている。9月21日、賢治は没後91年を迎える。 (写真は生前の菊池捍。自邸を舞台とした「黒ぶだう牛」騒動を知ったら、どんな気持ちになるだろうか=インターネット上に公開の写真から) 《追記ー1》〜「牛タン倶楽部」と「牛タン王国」という似た者同士!!?? パワハラ疑惑などで断崖絶壁に立たされている兵庫県の斎藤元彦知事と副知事(辞職)を含む側近4人は県職員の間で「牛タン倶楽部」という隠語で呼ばれている。東日本大震災の際、兵庫県は宮城県三陸町に支援職員を派遣した。ちょうどその時、総務官僚として同県に出向していた斎藤知事と4人は急接近し、仙台名物の牛タンに因んでこんな言葉が生まれたという。一方、本場仙台のお株を奪う売り上げを誇る「牛タン王国」の当市のトップ、上田東一市長にも同じようなパワハラ疑惑がずっと、付きまとっている。似た者同士は骨の髄まで“そっくり”さん… 《追記―2》〜滝沢市では“市長米”が返礼品に!!?? 6日付の河北新報(電子版)は岩手県滝沢市の武田哲市長の家族が栽培する米がふるさと納税の返礼品になっていると報じた。これについて、総務省は「法律上は問題ないが、聞いたことがないケースだ」とし、専門家は「税金で買い上げる返礼品なので、倫理的な問題はある」と指摘した。ところで、当ブログのミステリーシリーズで、上田市長が旧菊池捍邸の『黒ぶだう』モデル説について、公式の記者会見の場で疑義を呈した一方で、このモデル説を返礼品「花巻黒ぶだう牛」のキャッチコピ−に使っている問題点を詳細に分析してきた。これって、“市長米”案件より悪質な“虚偽”広告にならないのか。 そういえば、上田市長も事あるごとに「社会規範上は問題はあるが、法律には抵触していない」―が常套句だった。市政運営の最上位に「社会規範(倫理)」を据えることこそが、政治家の矜持(きょうじ)というものではないか。 《追記―3》〜それにしても、よく似ているなぁ!!?? 「就任から半年経ち、知事の言動に違和感を覚え始めた。怒りっぽくなり、『瞬間湯沸かし器』とささやかれるようになった。『全国初』を好み、『マスコミに取り上げられるネタ』を探すよう職員に求めるようになり、知事が目立つための施策を優先させる雰囲気が生まれた」(9月7日付「朝日新聞」)ー。斎藤元彦・兵庫県知事のパワハラ疑惑などをめぐる議会百条委員会の関連記事の中にこんなくだりがあった。我がイーハトーブのトップとそっくりな言い回しではないか。エリート首長(ともに東大卒)に共通する“トップ病”なのか…
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2024.09.05:masuko
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