▼忙中閑―空気の日記…それがある日突然、なくなるということ!?
  “アベノマスク”を揶揄(やゆ)していた自分がいつの間にか、その姿に違和を感じなくなっているという不可思議…。そういえば、詩歌の世界でも年中、通用する“季語”になったみたいで。そして、スポ−ツ界に目を転じれば、あの“なおみマスク”が…。そんな時に出会ったのが「空気の日記」―  「空を見上げれば、すいすい元気に飛び交うアキアカネの群れ。おお、秋だ秋茜(あきあかね)だ。足元を見れば、道には色づいた落ち葉がチラホラ並びはじめている。去年の秋と今年の秋の違うところは――落ち葉のなかに、白いマスクが何枚か混ざっているところかな」―。詩人23人が輪番でつづるWEBサイト「空気の日記」の9月23日付の文章にこんな一節が…。「玄関先の古紙回収のトイレットペ−パ−が盗まれた」(4月1日付)という一文でスタ−トしたこの日記は、こんな具合に書き進む(以下、9月25日付朝日新聞「天声人語」から引用) ●禁制の集会に行くかのように/息をするのも恥じ入りながら/ス−パ−にこっそり出かけてく(4月12日)●手を洗っても洗っても拭えない汚れがあり/蛇口から流れつづける今日という一日(5月6日)●陰/陽/白/黒/必要/不要/緊急/不急/一輪の花でさえ/そんなふうにはほんとうは分けられない」(6月6日)●STAYとかHOMEとかGO TOとか/わたしたち犬みたいだよね」(7月19日)●マスクをする 呼吸をする/暑くてくらくらメマイがする/なぜかセカイがくるくる回る(8月6日=この日は75年目の広島原爆の日)●布でつくられたマスクを手洗いする朝が/いつもの流れにまざって/この日常を/たやすく認めたら/わたしが壊れる(9月9日)●わざわざ書くまでもないような/ささいなことを/ううん/わざわざ書いておかないと/あとあと喉元過ぎて忘れてしまうだろうから(9月10日=沖縄那覇在住の詩人)   「空気の無くなる日」(1949年)―。ふいに、70年以上も前の映画のシ−ンが目の前によみがえった。子どもたちが5分間、呼吸を止める訓練をしたかと思えば、自転車のチュ−ブや氷袋に空気をためようとするなどてんやわんや大騒ぎ。彗星が接近する「その年の7月28日」に5分間だけ、「地球上から空気がなくなってしまうそうだ」というデマに踊らされるドタバタ劇である。1円20銭だった氷袋が何百倍にも高騰するというあたりは、コロナ禍でのマスクの買い占めを彷彿(ほうふつ)させるではないか。この2年前、当時の児童雑誌に掲載された同名の小説(岩倉政治著)の映画化で、私も恐るおそる見に行った記憶がある。ところで、冒頭に引用した詩はこう続く。  「マスク暮らしも、板について。人気のないところでのマスク外すタイミングも心得た人々の、外し方もそれぞれ個性が出ていて、観察するとけっこう面白い。顎の下にずらしてタバコ吸ってる、顎マスク。片肌脱いだ遠山の金さんのように片方外した、片耳マスク。ゴム紐が伸びきってないとああはできないだろう頭の上の、あみだマスク。口だけ隠せばじゅうぶんだと思っているらしく堂々と、鼻出しマスク。人の気配を感知するとさっとポケットから現れる、忍びマスク。マスク景色も、十人といろだ」  「ところ変われば、セリフも変わる――世界お国別、口説き文句の違いです。これは唸った。アメリカ人にマスクをさせるには、『ヒ−ロ−に、なれるよ』(アメコミだ)。イギリス人には、『紳士は、してるよ』(おとなだ)。ドイツ人は、『マスクは、ル−ルだよ』(まじめだ)。イタリア人は、『モテるよ』(さすがだ)。さて、日本人は?と固唾を飲んで待った。さて、なんだとおもう?なんだとおもう?なんだとおもい、そうかとおもった。そうかとおもい、やっぱりとおもった。そして、ちょっと悲しくなった。答えは『みんな、してるよ』(赤信号だ)」…  あぁ、早くマスクを外して、すっきりしたい。でもやっぱり、新型コロナウイルスがおっかない。齢80歳にして、ふたたび「5分間呼吸停止術」に挑戦するとするか。でもたったの5分間、息を止めることができたとしても…。物理学に「イナ−シャ(慣性)の法則」というのがあるそうである。平たく言えば、周囲に慣れ親しむというような意味なのだろうか。ぐるりと見まわすと、私たちのまわりにはすでに「ニュ−ノ−マル」(新常態)という名の城壁が張りめぐらされている。「付けるも地獄、外すも地獄」―あぁ、“マスク地獄”よ!?  10月19日付の日記にこんな一節があった。目の前にはもう、冬が駆け足で近づいている。 春、夏、秋、とくりかえされるカンセン、というひとつの音にわたしはもう驚かなくなっているのだろうかほんとうは少しも慣れていないことを見せないことに慣れただけなのだろうかひさしぶりに降りた駅一瞬 マスクをはずして風のつめたさを吸いこむ……     (写真は「空気の無くなる日」のひとこま。何となく滑稽かつ悲しげな光景である=インタ−ネット上に公開の写真から)     
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2020.10.27:masuko

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