除菌?:ヤマガタンAnnex|山形の農業〜農林水産
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我が家では1,000羽のニワトリたちを大地の上で飼っている。健康でおいしい玉子を得るためだ。
ある日、鶏舎から外に出たニワトリ達をぼんやり眺めていたら、土を突っつき泥水をすすっていることに気がついた。鶏舎の中にはエサがあるし、きれいな地下水だって絶え間なく注いでいるのに何を求めての事なのだろうか。
私はそれまでニワトリたちに、餌を「石川県の菌」で発酵させて与えて来た。外には地元の菌、身体には「石川県」。こんなミスマッチは自然界にはありえない。これを是正するために地元微生物の塊である土を体内に取り込もうとしていたのではないか。そう考えた。
この私の仮説を分かっていただくには前置きが必要となる。まず土の中の微生物。わずか1グラムの肥えた土の中に十数億余個もの微生物が存在しているという。その働きは多岐に渡る。その世界を浅学の身でとても説明できるものではないが、森の松の木の根本で息絶えたウサギが、鳥や獣に食べられたわけではないのに、いつしか解けるように小さくなり、消えていったとすれば、それは微生物たちの働きによるものだ。このことは俺にも分かる。
人間の身体の中の彼らの働きも大きい。食べた物が胃から腸に送られ、やがて分解されて養分となり、身体に吸収されていく。これは誰でも知っているが、この行程にもたくさんの微生物が関与していて、彼らの助けがなければ食べた物を取り込むことができない。微生物の助けをかり、養分を吸収するという点では植物も動物も人も一緒。彼らがいなければいずれも存在できない。
私は人間の身体の中の微生物たちのすさまじい数をウンコを通して知った。いいか、聞いて驚くな。先ほど1gの土の中の微生物の数を10数億と言ったけど、ウンコはそんなものじゃない。わずか1gの中に1兆個も含まれているのだ。1日500gのウンコをしたとすればその500倍の微生物(腸内細菌)が体外へと排泄されていったということになる。だからといってあわてる必要はない。体外から、あるいは自己増殖で毎日その分は補われているのだから。微生物が出たり入ったり・・人体を巡っているということか。
彼らはいつ人の身体の中に入って来るのだろうか。このことについて、以前NHKのTVがこんな趣旨の放送をしていた。
「人間の赤ちゃんが生まれ出た時は無菌状態だが、外界に出たとたん、空気中から、母親の皮膚から、あるいは・・あらゆるものを通して、体内に侵入し、わずか3日ぐらいの間に生きるに必要な微生物が全てそろう。その日以来、ずっと人間の生命活動の一端を担ってくれる」という。
この微生物だが、全国どこでも同じだというわけではないらしい。植物や動物たちがそうであるように、微生物も気候条件によって微妙に棲み分けている。
身体の中でも、雪国の私の中に棲んでいる微生物と、温暖な地方に住んでいる人の微生物とでは決して同じではない。
こんな話があった。来日し、私のところに長く生活していたタイ農民の友人と久しぶりにタイで再会した。彼の話によると、タイに帰った後、下痢が続いてどうしようもなかったという。
「日本の菅野のところで長く暮していたので、タイ人の俺も菅野のところの微生物の身体になってしまっていたんだ。下痢はタイの農村に帰って来てから始まった。でもそれは日本からこちらの微生物におきかえられるまでの出来事だったよ。」この話は地域と微生物と身体の関係を表していて面白い。
有機農業に「身土不二」という言葉がある。もともとは仏教からきた言葉だそうだが、身と土(自然)は一つであるということだ。つまり、人間はその地域の自然の一部だから、この自然と調和して生きることが大切だと教えている。この言葉の字面だけを見ると分かりにくいが微生物を通して考えれば良く分かる。
さあ、お分かりいただけただろうか。私が想像したニワトリたちが土を突っつく背景を。私はさっそく「石川県」をやめ、地元の山から土をとって来て、餌を発酵させた。内も外も山形県。ニワトリたちはスズメやヤマドリたちと同じように地元の自然の一部として大地の上を遊びまわっている