安久津八幡神社の倭舞をご紹介します。【高畠町】:置賜の宝発掘プロジェクト(仮称)

置賜文化フォーラム
安久津八幡神社の倭舞をご紹介します。【高畠町】



 昨年の春に、安久津八幡神社の春の例大祭で子どもたちによって舞われる「倭舞」の取材に行きました。遅ればせながら、ご紹介したいと思います。

■安久津八幡神社の倭舞とは

 毎年5月3日に行われる安久津八幡神社春の例大祭において、巫女の衣装に身を包んだ8人の小中学生によって倭舞が奉納されます。
 国の安泰を祈願し、田植えの始まりを告げ、五穀豊穣を願う伝統的な舞として伝わっており、奈良春日大社の舞と同系のものといわれています。
 倭舞は4曲からなっており、本殿では『若宮』『君可代』『春日山』の3曲、舞楽殿では『田植舞』の1曲が舞われます。舞手は女の子で「巫女」といい、安久津八幡神社周辺の高畠町大字安久津の氏子の子どもたちに受け継がれています。舞が終わった後に、巫女が縁起餅をまきます。

■安久津八幡神社の春の例祭

 平成25年5月3日(金・祝)に行われた安久津八幡神社の春の例大祭において、同神社周辺の小中学生の女の子8人によって倭舞が奉納されました。

◆安久津八幡神社 春の例祭「倭舞」
日時:平成25年5月3日(金・祝) 午前10時から
場所:安久津八幡神社 本殿・舞楽殿

花火の合図と共に本殿に進む巫女と参会者ら
 
神事の様子

 5月3日、午前10時に花火が打ち上がり、安久津八幡神社周辺に春の例祭の始まりの合図が響き渡ります。はじめに、舞楽殿で神事を行います。
 神事は、神に関するまつりごと、儀式のことで、神職や巫女、稚児などが神意を伺う行為であることが多いといいます。

■倭舞(やまとまい)

倭舞の歌い役(写真提供:宇佐美卓哉さん)

 
 本殿で、倭舞3曲の奉納が始まります。
 『若宮』『君可代』『春日山』の順に、3曲を舞います。
 倭舞は、笛役と歌い役の謡に合わせて舞い、それぞれ、舞い方と謡が違います。
 奉納の様子を『若宮』『君可代』『春日山』の順にご紹介いたします。


◆若宮(わかみや)

 最初に奉納するのは『若宮』です。
 『若宮』は、倭舞に初めて参加する女子児童によって舞われます。昨年は、小学4年生の女子児童2人による舞が披露されました。年によっては3人で舞う場合もあるそうです。

倭舞『若宮』(写真提供:宇佐美卓哉さん)

◆君可代(きみがよ)

 二番目に奉納するのは『君可代』です。
『君可代』は、倭舞に参加してから2年目の女子児童が舞います。

倭舞『君可代』(写真提供:宇佐美卓哉さん)

◆春日山(かすがやま)

 最後に奉納するのは、『春日山』です。『春日山』は、頭に天冠をかぶって舞うのが特徴です。『若宮』『君可代』を経験した3年目の女子児童が舞います。
 子どもたちは、約3年間舞を経験し、『春日山』を舞い終えると、倭舞を卒業し、次の世代へと舞を受け継いでいきます。

倭舞『春日山』(写真提供:宇佐美卓哉さん)

■舞楽殿へ移動

倭舞を終え、衣装替え(写真提供:宇佐美卓哉さん)
 
紅一色の巫女衣装

 倭舞3曲を奉納したあとは、石畳の参道途中にある舞楽殿へ移動し、『田植舞』を奉納します。本殿で奉納した3曲では、千早(ちはや)と緋袴の衣装に身を包んでいましたが、田植舞では、千早(ちはや)をたすきに替えて、緩やかに右肩からかけ、赤一色の衣装となります。

本殿から舞楽殿へ移動
 
参道途中にある舞楽殿にて『田植舞』奉納

 安久津八幡神社の境内に、巫女衣装の紅色が鮮やかに映えます。
 舞楽殿は、室町時代の末期に建造されたといわれており、茅葺屋根からはその歴史を感じます。舞楽殿前には、大勢の見物客が詰めかけていました。
 田植舞を舞う巫女8人と歌い役の先輩巫女が舞楽殿に入り、いよいよ『田植舞』が始まります。

■田植舞(たうえまい)

 『田植舞』は、農作業の前祝いと豊作祈願をする舞で、8人で円を描きながら舞います。
 舞の動きのなかには、田植えをする所作が含まれており、五穀豊穣を願って、伝統ある古式ゆかしい舞を奉納します。

『田植舞』奉納(写真提供:宇佐美卓哉さん)

田植舞を終え、餅まきをする巫女
 
大勢の観客が手を差し伸べる(写真提供:宇佐美卓哉さん)

 田植歌とよばれる謡に合わせて『一、二、三、四、二、三、四』の順に舞います。
 田植舞を終えると、すぐにお護符の餅まきがあります。巫女が餅をまくと、縁起物の餅を手に入れようと、多くの見物客が手を差し伸べていました。

記念撮影

 巫女の姿をした地元の少女たちは、優美に舞を披露し終えると、緊張が解けた様子でほっと笑みを浮かべていました。

■倭舞・田植舞を支える方々の取り組み

『春日山』に使用される天冠
 
着付けの様子

 約80年の歴史がある倭舞が現在も続いているのは、倭舞の伝統を受け継ぎ、大切に守り続ける方々の支援があるからだと思います。
 子どもたちに舞の指導をされたり、当日の巫女衣装の着付けや、頭に飾る天冠(てんかん)の着け方などの欠かせない準備を行うのは、安久津八幡神社の伝統を引き継いでいる周辺の方々です。
 現在、指導にあたっている方々は、現在の小中学生と同じように、かつては春の例大祭で巫女として倭舞を舞ったそうです。現在その方々は、伝承・保存活動に関わっています。

受け継がれる巫女衣装(写真提供:宇佐美卓哉さん)

 しかしながら、倭舞の舞い方や、謡を歌える人が少なくなってきているとお聞きしました。一時は、伝承者がおらず、途絶えかけた年もあったそうです。
 歌い役の指導者は、「貴重な倭舞の伝統を守り続ける為に、子どもたちに指導すると同時に、伝統を引き継いでいきたい大人の方にも舞や謡を指導することに力を入れている」と話していました。



「倭舞」を受け継ぐ子ども達(写真提供:宇佐美卓哉さん)

 置賜地方を代表する古社であった安久津八幡神社には、昔から近隣の芸能が伝わり、定着していきました。本来継承されていた社寺では途絶えてしまったものの、安久津八幡で変わらず伝承されてきた伝統が倭舞・田植舞です。
 安久津八幡神社に伝わる伝統を次世代へと引き継ぎ、この先も大切に残して欲しいと思います。



〇取材日    平成25年5月3日(金・祝)
        詳細:安久津八幡神社 春の例大祭「倭舞」

〇取材協力   安久津八幡神社(一戸芳樹宮司)
        安久津八幡神社文化財保存会

○一部写真提供 宇佐美卓哉さん

○参考資料   高畠町郷土資料館








2014.01.23:Copyright (C) 置賜文化フォーラム
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